自分の会社を語れるか
新卒採用には入社案内が必要で、学生はこの媒体をよく見ます
私は毎年新卒用の入社案内を作成しています
その時に一番苦労するのが入社案内の見開きに来る言葉『コンセプト』『理念』『キャッチフレーズ』などの
「どんな会社?」
「何を目指しているの?」
「この会社は何のために存在しているの?」というスローガンのようなものです
採用の総責任者なので頭を痛めながら無い知恵を絞って、いつも考えてます
皆さんは自分の会社を学生に向けて表現するならどのような言葉を使いますか?
「夢を創造する」「未来に躍進する」「豊かさを追求する」など〈夢〉〈未来〉などを含むキャッチフレーズが多い気がします
キャリア採用(中間採用)なら給与などの待遇面と仕事内容を明示するのがメインになりますが、相手が初めて社会に出る学生となると企業の道標が大事になってきます
中学3年生・高校3年生・大学4年生に〈短く〉〈わかりやすく〉〈共感を得る〉言葉というのは意外に難しいです
弱小メーカーの挑戦
本田技研の入社案内を見て驚きました
子供たちに青空を
「まだこのスローガンが使われているんだ!」と思うと同時にブレない企業姿勢に敬意を覚えます
昭和40年代と言えば目覚ましい経済発展と同時に〈公害問題〉が深刻化していた時期です
発展=光 公害=影 が浮き彫りになってきていた頃です
東京の多摩川は「死の川」静岡県の富士川下流は「死の海」と呼ばれるほど汚染がひどかったようです
当然企業も国も「発展のためには公害には目を背ける」という姿勢が強かった時代でもあります
自動車業界は年間187万台もの車を売り、大幅に増えた自動車の排気ガスによる大気汚染も問題に上がります
昭和45年7月、東京の環八沿いのグラウンドで練習していた学生たちが突然大量に倒れ病院に運ばれるという事件が起こり、 調査の結果は光化学スモッグが原因だということが分かります
そんな中アメリカでマスキー法が通過します
マスキー法は「車の排気ガスを現在の10分の1に減らす」というとんでもない法律でアメリカのBIG3をはじめ、世界中の自動車メーカーは「マスキー法は悪法!」と猛反発をします
世界で唯一この問題に果敢に挑んだのがホンダで、工場の至る所に『子供たちに青空を!』のスローガンは大きく貼られます
苦心の末『CVCCエンジン』を完成させマスキー法基準をクリアし、世界を仰天させます
アメリカのBIG3ですら不可能であったことを二輪車から自動車業界に参入したばかりのホンダがやってのけたのです
社会の為の仕事
CVCCエンジン搭載のシビックが完成した後本田宗一郎は社長の座を降ります
引退の理由を聞かれ語ったのは
「CVCCの開発に際して『BIG3に並ぶ絶好のチャンスだ!』と言ったが、若い人たちから『会社のためにやっているのではない!社会のためにやっているのだ』と反発された」
「いつの間にか私の発想は企業本位のものになっていた」
「若いというのはなんと素晴らしいことか!みんながどんどん育ってきている」
社員が社長を尊敬し、社長が社員を信頼するという絆があったからこそホンダは世界に誇る大企業に成長できたのだと思います
その絆が込められた言葉が『子供たちに青空を!』なのです
EVに完全に舵を取り、長らくホンダを支えてきた下請けメーカーから「エンジンのホンダがエンジンを捨てた」など批判もされていますが、スローガンから考えれば至極当然の方向転換です
このような志を持つ企業をうらやましく思います
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました